大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和49年(特わ)421号 判決

主文

被告人を懲役六月に処する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一、法定の除外事由がないのに、東京都知事の許可を受けないで、昭和四七年八月二五日ころから昭和四八年二月八日ころまでの間継続して、法定の区域内である東京都板橋区三園二丁目一二番所在の面積八九〇番地の空地において、小屋松義治ほか多数の者から、一般廃棄物である廃材、木クズ、タタミ等または産業廃棄物である廃土砂、ビニール、プラスチック、ダンボール、発泡スチロール、インク空缶等(これらの容積の合計は二トン積トラック一、三〇〇台分くらい。)の処理を委託され、その料金として合計約四〇一万四、八〇〇円を収受して右廃棄物を同所において燃焼させ、もって一般廃棄物の処理および産業廃棄物の処分をいずれも業として行なった

第二、昭和四七年ころから連日にわたり前記場所において東京都公害防止条例五二条の規定に違反して大量に前記廃棄物を燃焼させたため同年九月二六日ころ、東京都板橋区長から同条例五六条の規定に基づき、同所において廃棄物を燃焼させることを直ちに停止するよう命令されたものであるが、その命令に従わないで別紙一覧表記載のとおり同年一〇月二日ころから昭和四八年二月八日ころまでの間二六回にわたり前記場所において大量の廃棄物を燃焼させ、もって右の命令に違反した

ものである。

(証拠の標目)≪省略≫

(前科)

被告人は、昭和四三年四月二二日当裁判所において道路交通法違反、業務上過失傷害罪により懲役八月に処せられ同年一二月二三日右刑の執行を受け終ったもので右の事実は被告人の前科調書および警察庁刑事局鑑識課作成の指紋照会回答書によってこれを認める。

(適条)

第一の所為中

一般廃棄物の処分 廃棄物の処理及び清掃に関する法律七条一項

産業廃棄物の処分 同法一四条一項

右各処分を業として

行った所為    同法二五条

地方自治法二八一条四項

第二の所為    東京都公害防止条例六一条二号、五二条、五六条

刑種の選択    各所為につきいずれも懲役刑選択

再犯加重     刑法五六条一項、五七条

併合罪加重    同法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い第二の罪の刑に従う)

訴訟費用     刑事訴訟法一八一条一項本文

(量刑事情)

被告人は、昭和四〇年以降昭和四五年までの間において業務上過失傷害罪で三回、器物損壊、傷害、暴力行為等処罰に関する法律違反等で三回のいずれも罰金刑を受け、昭和四三年四月二二日には道路運送法違反、業務上過失傷害罪により懲役八月の実刑を受けておりながらその刑終了後五年を経過しない間に再び本件各犯行に及んだものであること、被告人は、昭和四七年八月二五日ころ本件土地に笹目商事を設立し、廃棄物の焼却処理を目的とする営業を開始したが、被告人の右営業は屋外での焼却の方法によったため大量の廃棄物の燃焼の結果は、時には火勢が強く付近の高圧線や建造物等への引火、類焼の危険や煤煙や悪臭による付近住民への著るしい被害を及ぼし環境汚染の要因となったこと、右地域住民の健康で快適な生活を営むべき権利を防げる公害の除去のため三園地区住民より東京都板橋区役所に対し請願がなされ、これに基き同区役所職員が同年八月下旬ころから九月中旬ころまでの間に実態調査をなし、大量の廃材等の燃焼行為が東京都公害防止条例に違反する旨の口頭による警告をなしたにも拘らず被告人はこれを無視して営業を続けたこと、右警告に従わなかったので板橋区長は同年九月二五日付で書面をもって被告人(他の業者に対しても)に対し、同条令五六条に基き燃焼停止の行政命令を発したところ被告人は同区役所に出向いて区長に対し「昭和四七年一〇月一四日までに約束どおり停止し、その後は正業につき皆様方に迷惑のかかる行為は一切行いません」との念書を差入れながらこれを遵守せず同年一一月二五日付の同区長の警告書および同年九月二七日付、同年一〇月一三日付各東京都清掃局長より発せられた無許可営業であるから同処理行為を停止するよう警告書の交付を受けながらもこれを故意に無視し、その後は同区長、同局長の呼び出しにも応ぜず、なお営業を継続したこと、同年一二月一六日同区役所職員が本件現場へ立入り調査のため出向いた際には暴力的に威かくし、器物を投げつける等の暴行に及んだこと等を総合すると被告人に対しては刑事責任、社会規範の厳しさについて更めて強い自覚を促すうえでも懲役刑の選択が必要である。そこで再犯加重のうえ主文の刑を量定する。

(裁判官 富永元順)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例